パワポケ考察⑧ 哀しい女の系譜(前半) 四路智美・神条紫杏・白瀬芙喜子

6 本論その4:哀しい女の系譜 はじめに 前回のパワポケ考察⑦では神条紫杏にまつわる大まかなストーリーを書いた。パワポケ考察②での四路智美に関する記述を読んだ人なら、この二人が多くの点で似通っていることに気が付くだろう。パワポケシリーズには正史…

パワポケ考察⑦ プレイヤーという神の視点がもたらす意味(後編) 神条紫杏を題材に

神条紫杏の真実あるいは「語られないもう半分」を通じて世界のすべてを知ろうとすること 次は、「話の半分は決して語られない」というテーゼをほとんどそのままに表したエピソードを書きたい。そのためにまずは神条紫杏というキャラクターの説明をしなくては…

パワポケ考察⑥ プレイヤーという神の視点がもたらす意味(中編) パワポケ5メインストーリーから

パワポケ5メインストーリーあるいは表立っては語られない二人だけの真実 前半では虐げる者/虐げられる者に着目してエピソードを見てきた。しかし、パワポケシリーズにおける複眼的な視点というテーマはこれだけにとどまらない。これから書く内容を一言で言…

パワポケ考察⑤ プレイヤーという神の視点がもたらす意味(前編) 戦争編や忍者戦国編を題材に

5 本論その3:語られない話のもう半分を知るために ホームレスの家出少女の立場を通して見るやむにやまれぬ人の事情 今回は、パワポケシリーズに通底するある思想あるいはテーマについて書く。一言で言うならばそれは、「ともすると見落とされがちな側のも…

パワポケ考察④ 大河ドラマ・人間ドラマとしてのパワポケ(後編) サクセスシステムの到達点

多彩な物語分岐の仕組み 前回は物語の内容について見た。以下ではよりテクニカルなシステム面について見ていきたい。一般的なノベルゲームでは、物語の分岐はプレイヤーに提示される選択肢を選ぶことによってなされる。一方、本シリーズではそれ以外の方法で…

パワポケ考察③ 大河ドラマ・人間ドラマとしてのパワポケ(前編) ギャルゲーとの比較を通して

4 本論その2:もう一つの世界をまるごと生み出す試み 31年の歴史と正史概念 前回の最後でパワポケシリーズは、「僕と君」のような狭く閉じた関係に終始する一般的なギャルゲーとは異なり、様々な人々の関係が織りなす一つの世界をまるごと表現しようとする…

パワポケ考察② ノベルゲームという形式の探究 四路智美を題材に

3 本論その1:分岐する物語が描き出す物語世界の多面性 パワポケシリーズの概要についての整理が前回で終わったので、本題である本作の内容とその魅力について書いていく。パワポケシリーズはストーリーに大きな比重があるため、ノベルゲームの性質を色濃…

パワポケ考察① パワポケとは何だったのか

1 導入 パワポケ2は人生で最もやりこんだゲームだ。本作に僕は小学校低学年のころに出会い、パワポケシリーズは以後、僕の人格形成に大きく寄与している(例えば①対象から距離を保ち様々な観点から物事を見る批判精神、②劣位に置かれた側への共感、③ご都合…

『鬼滅の刃』考察 何故売れたのか 物語に横たわる危険性とコロナ禍における日本社会

僕は『鬼滅の刃』に乗れなかった。マンガを全巻読み、映画も観たが何故ここまで売れたのかよくわからなかった。周りの同年代(アラサー)マンガ読みと話をしたとき、皆作品の質が高いことは認める。が、何故ここまで売れたのか、また多くの人間が何故面白いと…

サエキけんぞう(細川ふみえ)版夢見るシャンソン人形の解釈について

原曲であるゲンズブール版夢見るシャンソン人形が辛辣で皮肉に満ちた歌詞であることは有名な話である。乱暴に要約すると、「頭が空っぽな音の出る人形である私が、恋なんて知らないのに恋の歌を歌っている。私の歌に乗っかって踊りや恋に夢中になっている子…

『最強伝説黒沢』の考察 何故黒沢は「最強」なのか

『最強伝説黒沢』をはじめ、福本作品には常に一貫した世界観が通底している。それは信頼と情熱と信仰の不在である。誰も信じることが出来ない。自分にすり寄ってきた人間が次の瞬間には自分を蹴落とし、見捨てる。何も信じることが出来ない。信じるに値する…

まどマギのフェミニズム的考察 円環の理と感情エネルギーを中心に

『魔法少女まどか☆マギカ』において、キュゥべえが求める感情エネルギーは物語の核となる概念である。この存在ゆえに魔法少女と魔女は存在し、この存在ゆえにまどかは狙われ、そして最後には奇跡を起こす。何故最もエネルギ―効率の良い対象が、第二次性徴期…

「スパイダーマンって蜘蛛だって知ってた?」――因果は巡り、そして父になる

是枝監督作『そして父になる』は極めてロジカルな物語だ。登場人物の心情や行動一つ一つに必ず意味と理由が込められている。誰かが思い行動したことが、他の誰かにつながっている。それを解きほぐしていきたい。 言うまでもなく、本作は主人公たる福山雅治演…

三島由紀夫の『鹿鳴館』とマルクス主義フェミニズム

以前、三島由紀夫の『鹿鳴館』について、三島本人の弁とは異なり、アリストファネスの『女の平和』が下敷きにあることを書いた。また、両作品の類似点と相違点及びそれらから見えてくることを書いた。しかし、上野千鶴子らが紹介したマルクス主義フェミニズ…

『PSYCHO-PASS サイコパス』1期の考察 意味するところとは何だったのか

PSYCHO-PASS第1期がSFにおける傑作であることを示したい。そのため、本作の素晴らしさを余すところなく表現したい。以下では、本作に埋め込まれた設定と提出されている問題を一つ一つ紐解いていく。 【洞察に基づく未来予測】 まず本作の良さは、あくまで現…

るろうに剣心『追憶編』の考察 少年兵というモチーフについて

マンガやアニメ等のサブカルチャーにおいて、少年兵というモチーフは頻出である。今回扱う、るろうに剣心以外にすぐ思いつくものをあげても、エヴァ、ガンダム、ぼくらの、最終兵器彼女、マヴラヴシリーズ、ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン等々数多くのヒッ…

シュタインズゲート『スカイクラッドの観測者』の解釈について

シュタインズゲートシリーズ及び『スカイクラッドの観測者』は、正統かつ伝統的な形式に則った物語である。すなわち物語とは一般に、人間の意志が運命を乗り越えようとするものである。世界の法則という変えがたい真実に対し、運命を変えようとする意志がそ…

カウボーイビバップ 第15話 『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』の感想について

僕は本話がシリーズの中で一番好きだ。思わず快哉を叫びたくなるような軽やかさがある。それは過去を切断した軽やかさだ。本話は特にビバップの乾いた世界観とユーモアを体現するものとして特筆に値する。何もわからないまま始まり知りたいことは何もわから…

キメラアント編の考察 ジャイロとは何者なのか――メルエムとの対比で読み解く

前回は劇的な死を遂げたメルエム・コムギ・ネテロをキメラアント編における物語の幹として解釈を行った。メルエムが中央に位置し、それに向き合うのがコムギとネテロである。コムギは人間の文の極致を代表する者として、ネテロは人間の武の極致を代表する者…

ボカロ曲『炉心融解』の解釈について 『海と毒薬』を手掛かりにして

以前妻より『炉心融解』の歌詞「エーテル麻酔」は遠藤周作『海と毒薬』より来ているのではないか、という話を聞いた。エーテル麻酔は現代医学ではその引火性が問題となり、使用されない。現代が舞台だと思われる『炉心融解』作中において、何の説明もなく登…

東方アレンジ『Le Cirque de Sept Couleurs』の解釈について

この曲のラストのサビが昔から好きすぎるので、こじつけじみた技巧的な解釈だけれども、一本の筋の通った解釈というか妄想を書こうと思う。 ちなみにこのPVが好き(特にラストのサビ)。 www.youtube.com あらかじめ言っておくと、これから書く解釈は、 【東方…

キメラアント編考察① メルエム=キリストによる人類の祝福と偽キリストの原罪

『HUNTER×HUNTER』におけるキメラアント編は現代少年マンガの最高到達点だと思う。しかしながら、キメラアント編を正確に理解し、その素晴らしさを汲みつくした評論・考察は目につかない。本文はキメラアント編とは何だったのか、そしてその素晴…

物語的シミュレーションについて 何故人は物語を求めるのか

「まどマギとヴェーバー 奇跡の日常性について」という記事で昔、「物語的想像力によるシミュレーション」という造語を使った。今後は「物語的シミュレーション」と呼ぶこととし、この語の意味をより詳細にすることで物語の持つ効用を明らかにするとともに、…

偉大なる凡人または最後に勝利する者 常守朱の保守主義的偉大さ

朱のシビュラへのセリフ「尊くあるべき筈の法をなによりも貶める事はなんだかわかってる?守るに値しない法律を作り運用することよ。人間を甘く見ないことね。いつか誰かがこの部屋の電源を落としに来るわ。」の後半部を僕は読み(聞き)飛ばしていた。単なる…

キッズリターン考察「まだ始まっちゃいない」まあちゃんからシンジへの励ましと「まだ終わっちゃいない」北野武からまあちゃんへの励まし

キッズリターンのラストシーンに対する解釈は、北野武自身が言うように、意見が分かれている。①最後のセリフを素直に受け取り希望を見出すもの。とはいえ②現実には彼らは「終わっちゃっている」と理解するもの。①はナイーブ過ぎるが、②あまりに希望がない。…

映画『ボヘミアン・ラプソディ』の弁証法的解釈 3度生まれたフレディ

映画ラストの『ボヘミアン・ラプソディ』を歌うシーンでほろほろと泣いた。フレディの人生は始まったばかりなのに、もう彼は長くはないのだ。はたと映画の序盤でフレディが「ハッピーバースデートゥーミー」と歌っていたことを思い出す。ザンジバルでゾロア…

グリーングリーンの解釈について

この歌は原曲と歌詞が違う。原曲と日本語版との間に全く意味的なつながりはない。日本語版の歌詞が、とてもテクニカルで、さらには体系的で一本筋の通ったストーリーとしてよくできているため、解釈を書く。 まず歌詞は以下の通り。 1.ある日 パパと二人で …

『君の名は。』の考察 日本神話(イザナギとイザナミ)を手掛かりに心中ものとして読み解く

昨日初めて『君の名は。』を観た。この作品はハッピーエンドではない。ラストで二人が出会った場所はたぶん彼岸だった。そのように解釈したのは、二つの違和感からである。①みんなが助かり、二人が最後に出会えるという新海らしからぬご都合主義的展開。僕の…

汚職発見のビジコン、または社会科の自由研究としての汚職発見

【背景】私立中高一貫校に通っていたころ、運動会に出場するには学校指定のハチマキが必須で、何故か500円もした。これについて父がとても怒っていた。こんなに高い訳がない。リベートをもらっているに違いない、と。今考えると、値段設定がおかしいというこ…

モノポリーの新ルール提案:奴隷制度

モノポリーをしていて、二つ不満があった。①早々に脱落した人間が暇。②決着がつかずダラダラ続きがち。この二つの問題を解決するために、①'脱落した人間は奴隷となり、②'彼らがゲームの決着を早めるよう作用させる、という案が出た。これを検討していくと面…