2021-01-01から1年間の記事一覧

『うっせぇわ』の歌詞の解釈について あるいは「大人の不在」について

当初僕は『うっせぇわ』について、「取るに足りない子どもの歌」以上の意味を見い出せていなかった。①何故子どもの歌と思ったか。たとえ歌の中で社会人としてのルールやマナー(作中のこれらは子どもに想像・理解可能な程度の「社会」に過ぎない)が言及されて…

パワポケ考察⑬ 巨大組織の暗躍とプレイヤーを現実へと立ち返らせるリアリズム

パワポケシリーズにおけるある種のリアリズムについて 今度は本シリーズにおけるリアリズムを見てみよう。少しでもプレイしたことのある人間なら、本シリーズが過剰なまでにある種のリアリティにこだわっていることに気づくだろう。このこだわりは、これまで…

パワポケ考察⑫ 野球あるいは恋愛すなわち公私における物語の書き込みについて

8 本論その6:パワポケシリーズを特徴づける5つの要素 パワポケシリーズはギャルゲー要素や過激なバッドエンド、スタッフの悪ノリに焦点を当てて語られることが多い。しかし、それだけでは本シリーズの特徴をつかむことはできない。今回は「野球バラエテ…

パワポケ考察⑪ カタストロフとは何だったのか(後編)

物語発生装置としての具現化 ここで少し回り道をしようと思う。本文中で魔術と総称している超常的な存在のうち、本シリーズで最も重要なものの話をしたい。それは具現化という概念だ。具現化とは人間の強い願いが現実化したものだ。パワポケ7において、この…

パワポケ考察⑩ カタストロフとは何だったのか(前編)

7 本論その5:フィクションあるいは願いが持つ力 ――ままならない現実を抱きしめて 人の心あるいは願いが持っている二面性 前回は坂田博士の述懐を引用し、シナリオライターやプレイヤーである我々が起伏ある物語を望むが故に、パワポケシリーズ正史で報わ…

パワポケ考察⑨ 哀しい女の系譜(後半) 四路智美・神条紫杏・白瀬芙喜子

智美と白瀬 つぎに、智美ー白瀬ラインを見よう。そもそも白瀬とはどのような人物か。初登場はパワポケ8である。パワポケ8は違法サイボーグを取り締まる秘密組織に所属する主人公が、密命を帯びてプロ野球選手としてとある球団に潜入する物語である。白瀬は…

パワポケ考察⑧ 哀しい女の系譜(前半) 四路智美・神条紫杏・白瀬芙喜子

6 本論その4:哀しい女の系譜 はじめに 前回のパワポケ考察⑦では神条紫杏にまつわる大まかなストーリーを書いた。パワポケ考察②での四路智美に関する記述を読んだ人なら、この二人が多くの点で似通っていることに気が付くだろう。パワポケシリーズには正史…

パワポケ考察⑦ プレイヤーという神の視点がもたらす意味(後編) 神条紫杏を題材に

神条紫杏の真実あるいは「語られないもう半分」を通じて世界のすべてを知ろうとすること 次は、「話の半分は決して語られない」というテーゼをほとんどそのままに表したエピソードを書きたい。そのためにまずは神条紫杏というキャラクターの説明をしなくては…

パワポケ考察⑥ プレイヤーという神の視点がもたらす意味(中編) パワポケ5メインストーリーから

パワポケ5メインストーリーあるいは表立っては語られない二人だけの真実 前半では虐げる者/虐げられる者に着目してエピソードを見てきた。しかし、パワポケシリーズにおける複眼的な視点というテーマはこれだけにとどまらない。これから書く内容を一言で言…

パワポケ考察⑤ プレイヤーという神の視点がもたらす意味(前編) 戦争編や忍者戦国編を題材に

5 本論その3:語られない話のもう半分を知るために ホームレスの家出少女の立場を通して見るやむにやまれぬ人の事情 今回は、パワポケシリーズに通底するある思想あるいはテーマについて書く。一言で言うならばそれは、「ともすると見落とされがちな側のも…

パワポケ考察④ 大河ドラマ・人間ドラマとしてのパワポケ(後編) サクセスシステムの到達点

多彩な物語分岐の仕組み 前回は物語の内容について見た。以下ではよりテクニカルなシステム面について見ていきたい。一般的なノベルゲームでは、物語の分岐はプレイヤーに提示される選択肢を選ぶことによってなされる。一方、本シリーズではそれ以外の方法で…

パワポケ考察③ 大河ドラマ・人間ドラマとしてのパワポケ(前編) ギャルゲーとの比較を通して

4 本論その2:もう一つの世界をまるごと生み出す試み 31年の歴史と正史概念 前回の最後でパワポケシリーズは、「僕と君」のような狭く閉じた関係に終始する一般的なギャルゲーとは異なり、様々な人々の関係が織りなす一つの世界をまるごと表現しようとする…

パワポケ考察② ノベルゲームという形式の探究 四路智美を題材に

3 本論その1:分岐する物語が描き出す物語世界の多面性 パワポケシリーズの概要についての整理が前回で終わったので、本題である本作の内容とその魅力について書いていく。パワポケシリーズはストーリーに大きな比重があるため、ノベルゲームの性質を色濃…

パワポケ考察① パワポケとは何だったのか

1 導入 パワポケ2は人生で最もやりこんだゲームだ。本作に僕は小学校低学年のころに出会い、パワポケシリーズは以後、僕の人格形成に大きく寄与している(例えば①対象から距離を保ち様々な観点から物事を見る批判精神、②劣位に置かれた側への共感、③ご都合…

『鬼滅の刃』考察 何故売れたのか 物語に横たわる危険性とコロナ禍における日本社会

僕は『鬼滅の刃』に乗れなかった。マンガを全巻読み、映画も観たが何故ここまで売れたのかよくわからなかった。周りの同年代(アラサー)マンガ読みと話をしたとき、皆作品の質が高いことは認める。が、何故ここまで売れたのか、また多くの人間が何故面白いと…

サエキけんぞう(細川ふみえ)版夢見るシャンソン人形の解釈について

原曲であるゲンズブール版夢見るシャンソン人形が辛辣で皮肉に満ちた歌詞であることは有名な話である。乱暴に要約すると、「頭が空っぽな音の出る人形である私が、恋なんて知らないのに恋の歌を歌っている。私の歌に乗っかって踊りや恋に夢中になっている子…

『最強伝説黒沢』の考察 何故黒沢は「最強」なのか

『最強伝説黒沢』をはじめ、福本作品には常に一貫した世界観が通底している。それは信頼と情熱と信仰の不在である。誰も信じることが出来ない。自分にすり寄ってきた人間が次の瞬間には自分を蹴落とし、見捨てる。何も信じることが出来ない。信じるに値する…