パワポケ考察⑫ 野球あるいは恋愛すなわち公私における物語の書き込みについて

8 本論その6:パワポケシリーズを特徴づける5つの要素

パワポケシリーズはギャルゲー要素や過激なバッドエンド、スタッフの悪ノリに焦点を当てて語られることが多い。しかし、それだけでは本シリーズの特徴をつかむことはできない。今回は「野球バラエティ」や「ごった煮」と表現される本シリーズを特徴づける要素を5つの軸で切り出して見てみようと思う。具体的には、①熱血、②恋愛、③リアリズム、④悪ノリ、⑤人情もの、である。

熱血あるいは野球要素について

本シリーズは様々な意匠によって見えにくくなっているが、本シリーズにおけるストーリーの本筋は基本的に熱血である。多くの場合、主人公は熱血漢であり、困難に陥るも持ち前のバイタリティで周りの人々を巻き込み、全国制覇や日本一を成し遂げる。例えば部員が外藤先輩と自分だけというどん底からスタートするパワポケ1の主人公は、外藤からハッパをかけられる。

外藤「夢を叶えるためやったら、悪魔に魂を売るぐらいの気持ちはないんか!?」

あるいは、パワポケ2で弱小球団のたった一人の応援団員今田から、練習中に血まみれになりながらも旗を振り回すガムシャラな応援を受けて主人公は心が動く。

主人公「俺たち、あのガムシャラな応援にプレーで応えられるかな?」

凡田「それは、考えすぎでやんす」

主人公「…いいんだよ。俺、野球バカだから、野球でしかモノを考えられないんだ」

凡田「…しょうがないでやんすね。今日は、とことん練習に付き合うでやんす」

また、手酷い挫折で心がくじけてアメリカから日本に逃げるように移ってきた女性野球選手のアンヌに3主人公は熱い言葉をかけて励ます。

主人公「みんなの前で恥をかいてこいよ。逃げていたら、恥が恥じゃなくなるわけじゃない。恥っていうのは、自分自身を裏切っていることなんだ!」

情熱をもって真っすぐに生きていく。そして正史では栄光を手にする。それが本シリーズの主人公だ。いわば主人公はヒーローなのだ。その情熱は多くの場合、野球と接続されるがそうでない場合もある。例えば、パワポケ8では主人公は秘密組織のエージェントとして登場するが、その組織に正義がないことを悟ると、主人公は組織を告発した上で離反する。

「俺は、この事件で最初から最後まで 正しいと思ったことを曲げずに通した。これは、大きな自信と誇りだ。 そして、これこそがヒーローの報酬なのだ」

あるいは、パワポケ9において主人公は風来坊として訪れた街で助っ人として大活躍した後、街を去っていく。その街で世話になって人々が見送る中、主人公に憧れる少年は熱い思いをぶつける。

「オイラ、パワポケさんに挑戦するでやんす!今はバカで泣き虫でいじめられっ子でやんすけど、10年後はすごい男になってるでやんす!そのときになったら、絶対に日本の、いや世界のどこにいようとパワポケさんを探し出すでやんす!そして勝負でやんす!」

メインストーリーと野球要素が絡むとき、最も熱い展開となって物語は立ち現れる。例えば、パワポケ4で主人公は甲子園に出場できなければ神隠しにあう呪いにかけられる。何者かによる妨害や部費のやりくりに苦労しながらも、主人公はついに甲子園出場を果たす。そして、主人公は彼女候補にしてこの呪いと大きな関わりを持つ天本から激励を受ける。

天本「もう、ここまできたら呪いも部費も他人の思惑も関係ありません。これから試合をする他のチームの方々にもそれなりに負うものがあり、応援している人がいるのでしょう。ですが、あなたの背後には日の出島や大安高校の人たちがいて…その中に、私がいることを覚えていてくださいね」

あるいは、パワポケ5でスター選手である主人公は、万年二軍でクビ寸前の無気力なお荷物選手(以後、「小杉」と呼ぶ)と中身が入れ替わってしまう。三流選手の身体になってしまった逆境を跳ね返し、主人公は3年かけてスター選手に舞い戻る。一方、小杉は次第に地が出て落ちぶれていく。しかし、あるルートではのし上がっていく主人公を見て小杉は発奮して復活する。クライマックスでは日本シリーズで二人は激突する。逆境を跳ね返した主人公に対し、野球選手としてのプライドをズタズタにされた小杉が立ちはだかる。

小杉「.......。ようやく、直接対決だな」

主人公「ああ、ここまで長かった何もかも奪われた俺が、お前と同じこの場所に来るまで本当に長かった」

小杉「お前の動機は、ただの復讐だろう?お前が、その体でこの場所に立っていることが、オレの価値すべてを否定しているんだ。どんなに憎んでも、憎み足りないね」

主人公「...決着をつけよう。お互いの過去と、野球の才能すべてをかけて!」

小杉「貴様なんぞに負けられるか!このエリート野郎!」

ところで、パワポケシリーズには野球を中心とする表世界と、裏社会の人間が蠢き世界全体に影響を及ぼす裏世界とがある。通常、世界の表と裏は直接つながることはない。主人公にはわからない形で裏世界の動向が表世界の主人公たちに影響を及ぼすのが通例である。しかし、シリーズのラストにあたるパワポケ14では表世界と裏世界がつながり、主人公の野球の勝敗が世界の趨勢を決するストーリーとなる。すなわち、フィクション世界から出てきた凄まじい実力を有する野球マンガのキャラクターたちと、主人公は物語のラストで戦う(現実世界とフィクション世界もまたつながったということだ)。この決戦こそがシリーズ全体を通したクライマックスである。本シリーズは部員が二人しかいない弱小高校で全国制覇を成し遂げた熱血漢の主人公のストーリーからはじまり、誰もが知る野球マンガのキャラクターたちと世界の趨勢を賭けた決戦に挑むクライマックスで終わる。主人公視点から見た本シリーズの物語は一貫して野球を中心とした熱血のストーリーなのだった。

恋愛要素について

次は恋愛の要素を見ていきたい。恋愛はストーリーの本筋である野球の次に比重の大きな要素である。野球選手としての育成(具体的には超特殊能力の取得)を大きく左右するとともに、世界の趨勢及び物語の行方にも大きく影響をもたらす。そして単純に彼女候補との恋愛はパワポケの醍醐味の一つである。主人公にとって野球が公の領域に関する事柄であるならば、恋愛は私の領域の最たるものである。物語を通じ野球選手を育成するサクセスとは、主人公の人生を仮想体験するものであり、そうなればこそ公私両方の描写が不可欠となるわけだ。

シリーズ総勢92名の彼女候補たちがバラエティに富んでいることは考察③で触れた。繰り返すと、非現実的なところでは、マッドサイエンティスト、忍者、幽霊、サイボーグ、宇宙人などがいる。そして、現実にいそうな癖の強いものとしては、保険金をかけて主人公を殺そうとしてくる者、コギャル、ヤクザの娘、育児放棄気味のネトゲ廃人シングルマザー、水商売従事者、ファミレスの店長と不倫する者、マルチ女、無名の舞台女優、摂食障害の者、事実上のホームレス、剽窃・捏造常習の三流ジャーナリスト…と様々な社会的背景を持ち、あらゆる事情を抱えたキャラクターが登場する。

そして、よく言及されるように、彼女候補のバッドエンドは過激なものが多くかつ多彩である。まず、彼女候補92名中27名に死亡するルートがある。主人公の目の前で飛び降り自殺をしたり、主人公が手術費用を用意できず病死するのを見るだけしかできなかったり、敵に捕らわれ培養液の中に脳髄だけになって閉じ込められて永遠に苦痛を味わされ続けたりする。たとえ死ななかったとしても、見方によっては死ぬよりつらいかも知れない結末を迎えることもある。悪徳プロデューサーに持ち掛けられた枕営業を受け入れた結果、以前とはすっかり変わった雰囲気となって深夜のお色気番組に出ているのを主人公が見ているエンドや、心の均衡が崩れてしまい「感情のない人形」になってしまうもの、悪の組織に入って取り返しのつかないところまで行ってしまうものなどがある。

これらバッドエンドは、ハッピーエンドを際立たせるためのものであると本作のシナリオライターが言っているように、あくまで恋愛要素の主眼は、彼女候補との楽しい時間にある。例えば、13主人公はあさみとゆらりという親友同士の彼女候補たちと三角関係になる。ゆらりがあさみへの負い目から身を引こうとするのをあさみは押しとどめ、正面から自分と主人公に向かってくるように促す。ここで描かれるストーリーはひたすらに爽やかであり甘酸っぱいものだ。具体的な例を出そう。あまりに多いのでどれが最もよい例か難しいが、パワポケ10で和那と主人公がはじめてキスするシーンをあげよう。

高い能力を持ちながら体育祭で本気を出そうとしない和那に、主人公は勝てば「ごほうび」を出すと約束する。それを聞いて和那は200m走に目の色を変えて望む。しかし、力み過ぎたが故に観客席に突っ込んでしまう。そして、ボロボロの様子で勝てなかった旨を主人公に報告する和那は無念のあまりその場で大声をあげて泣き出してしまう。それを見て主人公は苦笑し、「しょうがないなぁ」と言う。そう主人公が言った直後に画面は暗転し、和那から「…あ」という言葉だけが漏れる。10以降、主人公と離れて戦いに明け暮れる生活を送ることになる和那にとって、この瞬間は彼女の中で永遠に繰り返される宝物のような幸福な瞬間だったことだろう。

あるいは、パワポケ4で主人公は離島に住む明朗活発で純朴な少女に告白する。

主人公「俺、ユイさんのこと好きなんだ!」

ユイ「…ひぁ~~~~っ!…」

主人公「お、おーい。何で物かげにかくれるの?」

ユイ「……」

主人公「ユイさんは俺のこと嫌い?」

ユイ(フルフル…)

主人公「えっ!それじゃあ…」

ユイ「えっと、えっと、わ、私、告白なんてされたことないから、どうしていいかわかんないの」

主人公「ええっと、それじゃあもう一度言うからだまってうなずいて?俺、ユイさんのこと好きだ。俺と付き合ってください」

ユイ「…(こくん) きゃ~~~はずかしい~~~!」

主人公「俺の方がはずかしいよ」

また、パワポケ10では今度は主人公が奈桜という彼女候補から告白を受ける(ここまでに至るまでの描写、すなわち彼女が主人公を意識するようになる瞬間や、いつもの元気いっぱいの彼女らしくもなくおっかなびっくりアプローチをかけていく描写にこそ醍醐味があるとも言えるがキリがないため割愛する)。

奈桜「あっ!ごめん!なんか話がズレちゃいましたね」

主人公「いや、いいけど。それで、ここに俺を呼び出して、何の用なんだ?」

奈桜「いやあ、あの…..その….」

主人公「どうしたんだ?突然、挙動が不審だぞ」

奈桜「そのね….えっとね」

主人公「はあ」

奈桜「一緒の校舎になったじゃないですか!」

主人公「そうだな」

奈桜「だから….これまでよりも、一緒に居れる時間が増えたでしょ!」

主人公「あ、ああ。なんで、そんなに大声なんだよ?」

奈桜「だ、だから、できたら、1年生の時よりも、あたしと一緒にこの学校をいろいろ…..って、ああ、もう!」

主人公「な、なんだよ」

奈桜「あたしは〇〇君が好きなんですよ!一緒に居て、楽しいんですよ!」

主人公「え…….」

奈桜「あたしはバカで、周りに迷惑ばかりで、落ち着きがなくて、うるさい奴だけど、あたしと付き合ってください!」

主人公「……….」

奈桜「な、何か言ってください」

主人公「……….」

奈桜「こ、この沈黙が耐えられませんよ」

主人公「……….」

奈桜「あ、あのう…….」

主人公「プ….アハハハハ!」

奈桜「えっ?」

主人公「そんな自分のダメな部分ばかりアピールして、誰が付き合うんだよ」

奈桜「じゃ、じゃあ……」

主人公「いいよ」

奈桜「えっ?」

主人公「いいよ。付き合おっか」

奈桜「えっ?ええええええええ?」

主人公「ナオ….うるさいよ」

奈桜「ええええええ…….やったあああああああ!〇〇君の彼女になりましたよ!」

主人公「うわっ!」

(ダキッ!)

奈桜「二人で楽しい思い出作っていこうね!これからは二人だから、楽しい思い出が2倍ですよ!」

主人公「嫌でもナオとなら作れそうな気がするな」

奈桜「うん!」

(ナオが彼女になりました)

主人公「だけど、ナオに一つだけ言っておくことがある」

奈桜「なんですか?」

主人公「自治会の目とかあるから、教室や人目のつくところでは、できるだけ大人しくしてろよ」

奈桜「わかってますよ!」

主人公「本当かよ?」

奈桜「うん……たぶんね 」

ここまで見た恋愛描写は、すべて主人公が高校生のときのものだった。プロ野球編・社会人野球編が舞台の場合は、恋愛のドロドロした側面もまた表に出てくる。パワポケ5のある彼女候補のケースでは、彼女はバイト先のファミレスの店長と不倫関係にあり、「私のような汚れた女は貴方にはふさわしくない」とフラれたり、刃傷沙汰になったりする。また、舞台役者の経験があるライターが担当した無名の舞台女優とのルートでは、劇団員たちのドロドロした恋愛事情が克明に描写されている。あるいは、主人公が彼女候補を寝取ったり寝取られたりするのも珍しくない。そして、パワポケシリーズは君と僕との話に関係性を完結させない。家族が良く出てくる。彼女の親は雇い主や自チームの監督、あるいはヤクザだったりする。家庭の事情で不本意に決まった別の相手との結婚を、主人公が阻止するためさらいに行こうとするケースや、彼女の両親に挨拶に行って顔が腫れ上がるまで主人公が殴られる(許嫁との婚約を破談させる結果になったため)ケースもある。子持ちのシングルマザーが彼女候補だったこともある。それも2人いる。そのうちの一人は、渡り鳥のようにさすらう主人公が街を出ていくその日、子どもの前で主人公に追いすがるように言う。

「昨日の晩、別れの言葉は何にしようかとそればかり考えていました。でも、恰好いいことを言うとそれっきりになってしまいそうで。恰好悪くやらせていただきます。どうか、行かないで」

もう一人はヤンママ風の風貌で、現実逃避するようにネトゲにはまり込み、育児からも逃避している。主人公との交流を深めていくことで、次第に彼女は立ち直っていく。そしてある日、彼女は主人公と子どもたちを連れて行った海で突然泣き崩れる。

主人公「へぇ、海ですか」

雅美「うん。この子たち、海見たことないからさ。前から連れて来てあげようと思ってたんだ」

主人公「そうですか」

雅美「わたしも来たの何年ぶりだろ」

娘「ママァ!こっちこっち!」

雅美「セナ!ミレ!遠く行っちゃダメよ!」

息子「はぁ~い!」

主人公「ほんと、海っていいですよね。見てるだけでいやされるって感じで」

雅美「…うん」

主人公「ゴミゴミした日常から解放された気分ですよ」

雅美「うっうっ」

主人公「雅美さん!なんで泣いてるんですか!?」

雅美「うっうっ、何でもないの。なんか涙が出てきちゃって。うっうっ、わたし何か疲れてんのかな」

主人公「ほらほら、大丈夫ですよ」

雅美「…うわぁ~ん!」

主人公「ま、雅美さん!」

雅美「なんか、なんか止まらないのよ。だからもう少しこのままでうっうっ」

主人公「…わかりました」

(そして…)

主人公「落ち着きました?」

雅美「ごめんね、ビックリしたでしょ。なんか急に、緊張の糸が切れた感じで涙があふれてきてさ。おかげで何か今まで溜まってたものが全部出たって感じ。ああ、スッとした!」

娘「ママァ!見て、こんなにいっぱい貝がらひろったぁ」

雅美「よかったわね。セナ、ミレのこと見てくれてありがとう」

息子「当然だろ。オレがパパみたいなもんだからな」

雅美「もう、マセたこと言わないの。それに、パパだったらもうすぐできるから。ねっ」

主人公「えっ?」

息子「おい、〇〇。ママのことあんまり泣かせんなよ」

主人公「はい、はい」

娘「はい、〇〇さんにも貝がらあげるからね」

主人公「ありがとうミレちゃん」

雅美「あの、〇〇君、手握らせて」

主人公「はい」

雅美「これから色々大変かもしれないけど、わたしはずっと今の気持ちを忘れない。だからおたがいに、ずっと助け合っていきましょうね」

主人公「ああ」

娘「ママ、わたしもおててつなぐ!」

息子「…オレだって」

雅美「はいはい。みんな、一緒よ」

パワポケシリーズは多様な恋愛のあり方を描いてきた。打算やしがらみのない愛情のみに基づいた純粋な関係だけでなく、複数名の様々な感情が渦巻くドロドロした関係もある。そして、しがらみや立場・責任を抱えた上での恋愛もある(自身の職務と恋愛関係との板挟みも作中ではよくある)。本シリーズは、様々な恋愛のあり方を描くことで人間の多様なあり方を照らしてきたというわけだ。

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パワプロクンポケット12

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  • 発売日: 2009/12/03
  • メディア: Video Game