パワポケ考察② ノベルゲームという形式の探究 四路智美を題材に

3 本論その1:分岐する物語が描き出す物語世界の多面性

パワポケシリーズの概要についての整理が前回で終わったので、本題である本作の内容とその魅力について書いていく。パワポケシリーズはストーリーに大きな比重があるため、ノベルゲームの性質を色濃く持つ(ここでは恋愛シミュレーションゲームと恋愛ノベルゲームとの質的違いについては言及しない)。ノベルゲームとは比較的新しい物語の形式である。小説と比較すると音や画像・動画が付いている点も画期的ではあるが、より本質的な小説との違いはストーリーが分岐する点にある。一般に小説のストーリーは一本道であり、何度読んでも同じ結末に至る。対して、ノベルゲームは一度目と二度目で結末が異なることが多々ある。多くの場合、物語を読み進めていくにつれて選択肢がプレイヤーに提示され、選んだ選択肢によって結末が変わってしまう。この工夫によってプレイヤーは自身の選択が物語の結末を変えてしまうという経験をし、物語に対する没入感が強化される。ここではプレイヤー=読者は外部世界から物語を見るよそ者ではなく、物語の参加者となる。加えて、この物語分岐システムにより、ストーリーと人物描写に多面性を持たせることが可能になる。現実を生きる僕たちは、あるいは小説を読む僕たちは、「起こらなかったがあったかもしれない世界」を知ることが出来ない。しかし、ノベルゲームではそれが可能になる。たとえば落ちぶれた登場人物Xがプロ野球選手として再起する世界もあれば、そのまま終わってしまう世界もある。あったかもしれない彼の人生を知ることで彼をより深く知ることができる。

例としてパワポケ1で登場した四路智美の話をしたい。彼女は1の主人公と同じ高校に2年次に転校してくる。実は彼女はプロペラ団という世界的な悪の組織(プロスポーツの利権に非合法手段で手を伸ばすマフィアのような存在)から密命を帯びて派遣されてきた工作員である。また、彼女の生い立ちについて、母は家出して消息不明で、小学生のときにプロ入りが出来ないことに絶望した父が自殺している。そして、その件にかかわっていたプロペラ団員である小林という男にしばらく育てられたのち、「手のかからない子供」だったため、すぐに自立して一人暮らしをしている。彼女を担当したライターによると、「この経歴が、彼女を愛に飢えさせてしまいます。ただし、プロペラ団での教育というゆがんだ環境で育った智美には、自分を突き動かしているのがなんなのか、理解できません。そのことが組織への忠誠心や悪への傾倒という形で、彼女の人生に影を落とすことになります」とある。彼女はなんとも哀れを誘うキャラクターである。祖父の仕送りでボロアパートに一人で住みながら、ほかの貧乏な同級生とパンの耳1袋20円をめぐって口論となるような生活をしている。にもかかわらず1の主人公がデートで高級寿司を食べに行こうと提案する場面では、断ることもなく奢られることを固辞し、自分の分を支払っている(回転寿司に行くケースもあり、その場合は主人公にごちそうしてもらうことから、主人公に気兼ねして高級寿司は断ったのだとわかる)。そして、高級寿司イベント直後の彼女の内心の声では「この分だと、あたしのところはガスに続いて、電気が止められる日も近いわね」とある。恵まれない境遇で育ち、貧乏暮らしをしながら悪の組織で自分を偽りスパイとして活動するだけの青春。いうなれば彼女はずっと日陰で人生を送ってきた。それを示す例として、彼女とクリスマスに高級ホテルのロビーでデートする場面を見てみよう。

智美「やっほー、〇〇君。今晩、どこか遊びに行く?」

主人公「どこにしようか」

智美「そうね….ホテルなんてどう?」

主人公「へ?ホ、ホテル~!?」

(そして…..)

智美「ふう~、やっぱり高級ホテルのロビーは最高だわ。お金もかからず、くつろげるものね」

主人公(まぁ、こんなことだろうとは思っていたけど)

智美「あっ、〇〇君。あれ、あれ。あそこにいるカップル、男のほうは銀行の頭取よ。で、相手はコンパニオンね」

主人公「へえ、ずいぶん歳のはなれたカップルだなぁ」

智美「….なに言ってるのよ。浮気に決まってるでしょうが!」

主人公「え?」

智美「あーっ、今度はあっちよ!」

(そして…..)

智美「けっこう楽しかったでしょ?」

主人公「う、うん(ロマンチックとはほど遠かったけど…)」

智美「あたし、ああいう『華やかな雰囲気』が好きなの」

主人公「へえ、どうして?」

智美「たぶん、一生、『縁』がないから…じゃないかな。じゃあね!」

主人公「……..」

智美「あ、忘れてた。〇〇君、メリークリスマス!(チュッ♡)」

主人公「う、うわ!?…….メリークリスマス…」

上記は智美側からのアプローチで主人公と付き合うことになったルートであるが、主人公たるプレイヤーは付き合わないルートも選択することが可能である。まずデートの誘いの電話を断るシーン。

(トゥルルル..トゥルルル…トゥルルル..トゥルルル…)

主人公「あっ、電話だ」

(ガチャッ)

智美「あっ、〇〇君。今度、いっしょに…えっと、映画でも見にいかない?」

デートの誘いを断る場合、主人公はここで選択肢「練習があるから…」を選択する。

智美「…あ、そうなの。じゃ、亀田君でも誘ってみるわ。じゃあね!」

以降、智美と付き合う可能性はなくなる。先ほどの選択肢で「うん、いいよ」を選択するとデートに行くことになるが、その後また選択肢が登場する。

智美「あははは、けっこうおもしろかったわね」

(そして…..)

主人公「帰り、送っていこうか?」

智美「一人で、大丈夫よ。……。〇〇君、これからも付き合ってくれる?」

主人公「えっ」

ここで「もちろん」を選ぶと付き合うこととなるが、「それは、ちょっと…」を選ぶと下記のように智美は言って、以後付き合う可能性は永久に失われる。

智美「アハハハ、言ってみただけよ。じゃあ、また学校で!」

パワポケシリーズで女性側から主人公にアプローチをかけるパターンはそう多くない。智美は主人公に対し、明確な好意を持っていた。そのきっかけとなったであろうイベントが存在する。智美が主人公に自分はプロペラ団の一員であることを明かす場面である。

智美「まぁそのうち、私がプロペラ団の幹部になったら、〇〇君くらい…」

主人公「プロにしてくれるって言うんだったらおことわりだよ」

智美「え」

主人公「最初から感じていたひっかかりが、ようやくわかった気がするんだ。正しくないやり方で手に入れたものからは、満足は、得られない。バレる、バレないとか、誰かがケガするとかは、関係なかったんだ。妨害作戦は、やるべきじゃなかった。今からでも、甲子園には、まっ正面からチャレンジするつもりだ」

智美(「あまい」とかなんとか反論したいけど、それ以前に、カッコイイわね)

智美「いいでしょ!全力でやりなさいよ。私も、応援ぐらいはしてあげるわ!」

夢に破れ絶望のうちに死んでいった父親を見ながら育ち、汚れ仕事に手を染める智美にとって、まっすぐに夢を見据えて正しく生きようとする主人公はまぶしく映ったに違いない。愛に飢えながら誰かに愛された経験の希薄な彼女は、積極的に自らアプローチする他の歴代彼女候補たちに比して、おずおずとしか主人公に近づくことができない。そして、たった一度の拒絶でくじけてしまう。おそらく彼女は意中の人に受け入れられる自分を想像すること、自信を持つことができない。「やっぱりそうだった」と思いながら諦めてしまう。

主人公と智美は結局のところ、付き合うことが出来たのだろうか。それは続編のパワポケ3にて明かされる。1の主人公は、シリーズ最凶最悪の彼女候補であるのりか(吐き気を催す邪悪。もう本当にろくでもないキャラ)と結婚していた。主人公は押しに弱かった。内心嫌がりながらものりかによる極めて強い押しに流される形での結婚だ。智美にとっては皮肉に他ならない。智美は主人公へのあてつけに主人公の親友の亀田と付き合う道を選んだ。智美は報われなかった。

そもそも彼女のプロペラ団員としての使命は、プロペラ団の息のかかった高校を甲子園に行かせること。そのために邪魔な高校は排除することだった。だからこそ彼女は主人公のいる高校に派遣されてきた。にもかかわらず彼女は、見違えるように強くなっていく主人公たちのチームを見て、そして彼らの情熱にほだされて、組織を裏切ることになる。彼らが甲子園にあともう少しで手がかかるそのとき、智美は主人公たちを排除することをやめてしまった。主人公が智美を受け入れてくれないことがわかった後でも、自分のした選択を主人公たちが知ることなく報われることがなくても、それをせずにはいられなかった。裏切りの報いはただ一人、自分だけが受けることを覚悟していた。

パワポケ1では主人公と智美が付き合うルートと、智美と亀田が付き合うルートの2つが存在する。智美が亀田と付き合うルートの場合は、①彼女は亀田を利用して自らの力でプロペラ団日本支部長を爆殺し、主人公たちには以後姿をくらまし、最終的には支部長の後釜におさまる(主人公と付き合うルートの場合、②支部長に智美が射殺される、③主人公らによって智美が救い出されプロペラ団は解体される、のいずれかの道をたどる)。パワポケ3は①のルートの後日談である。のりかと結婚してほどなく1の主人公はあっけなく事故死してしまう(余談だが当初の予定では主人公はのりかとの結婚生活による腎虚で死んでしまうというあまりに笑えない設定だったという)。そして、亀田は自分が1の主人公に対するあてつけのために選ばれたことを知り、智美すなわちプロペラ団への復讐を決意する。そのために過去の記憶を失った1の主人公をサイボーグとして生き返らせて騙した上で利用し、反プロペラ団活動を行う。一方、智美は大きな権力と力を持ちながらも後ろめたさから亀田に対して強く出ることができない。こじれにこじれたこの3者の関係を全く知らない記憶喪失の主人公が、パワポケ3では再度主人公をつとめることとなる。パワポケ3では主人公は智美と再び出会いなおす。主人公が記憶を失っていることを知った智美は、とっさに里見美千代と名乗る。「さとみ」と下の名でまた呼んでもらいたかった智美の、いじらしい計算によるものである。彼女は主人公の死後も彼を思い続けていた。例えば、主人公と再開する前、主人公の墓前で主人公に向けて「他の女と結婚した上、ポックリ死んじゃうあんたもあんただけど、ここに来ているあたしもあたしよね。…….帰ろう」と独り言ちるシーンがある。

パワポケ3とは智美にとって、彼女ら3人がたどった数奇な運命がもたらしたやり直しのチャンスであった。ここでも智美にはパワポケ1と酷似した3つのルートが用意されている。まず、主人公と再開しかかわりを取り戻す場合とそうでない場合のどちらかに物語が分岐する。①主人公とのかかわりがない場合は、自らの力でプロペラ団本部のボスを爆殺し、自らがトップとして悪の道をひた走る。主人公とのかかわりがあった場合は、②本部のボスに射殺される、または③本部のボスには撃たれたものの、主人公が与えたプレゼントによって智美は助かり、彼女の主導でプロペラ団が解体される。主人公とかかわりを取り戻した場合、途中で連絡が取れなくなるところまで同じである。その流れはこうだ。少し記憶を取り戻した主人公が、智美は昔からの知り合いなのではないか、と智美に聞くと、そのことを隠して近づいていた智美はあっさりそうだと認める。「思い出せなくて、ごめん」と謝る主人公に、「私とあなたは付き合っていた訳じゃないしね。…私の片思いだったし。そう、全部…昔の話」と悲しげな顔で言いながら帰ってしまう。そして智美は一人でつぶやく。「生きていてくれた…今はそれだけで十分」。それでも主人公への想いを智美が断ち切れていないことは、再開後に主人公からもらったプレゼントを肌身離さずつけている描写からも読み取れる。ここでも智美は主人公と結ばれることを半ば諦めてしまっている。以降二人が再開するのは、智美が死ぬルートの場合、智美が撃たれて死ぬ寸前である。そして二人は最後の言葉を交わす。

主人公「うわ!血まみれで誰か倒れてるぞ!おい、しっかりするんだ!」

智美「う…〇〇君?」

主人公「あれ?君は…美千代さん?」

智美「ふふ…あれはウソ。よ、四路…智美よ…あは…自業自得よね。ゴホ、ゴホッ!」

主人公「外へ運ぶから、それ以上しゃべらないで!」

智美「背骨と…肝臓が…やられたから…もうダメ……。あなたが…甲子園で優勝した…時…私、亀田君を利…前の支部長を殺…たから…」

主人公「えっ、何だって?」

智美「あの時に…言えなかったから…今言うね。甲子園優勝…おめでと…う…」

主人公「あ、おい!おい!お…い…智美…か。極亜久高校の時、同じクラスだったあの娘だったのか。思い出せなくてごめん」

最期まで主人公に自分の想いを告げることなく、胸に秘めたまま智美は死んでいく。主人公にとって智美はクラスの同級生に過ぎなかったことが最後に明示されるその温度差が哀しい。報われないながらも最期を主人公に看取ってもらえたこと、それは彼女にとってある種の救いだったろう。しかし一方で、「さとみ」と呼んでもらいたいとついた嘘のせいで、最期の瞬間に名前を呼んでもらうことは出来なかった。「自業自得よね」と自嘲する皮肉がさらに哀しい。

智美が助かるルートでは、ボスに撃たれて倒れているところを主人公が見つけるが、そこで少しの言葉を交わした後、智美はまた姿をくらましてしまう。「じゃ、縁があったらまた会いましょう。今度会う時には、私の事をちゃんと思い出しておいて欲しいわね。それじゃあ、またね!」。このルートのエンディングでは智美の尽力によりプロペラ団解体後の混乱は最小限に抑えられていることがわかる。そして主人公はこのように語る。「プロペラ団の後始末が全部終わった時、彼女が戻ってくる気がする。そして、みんなで昔のようにバカなことをやって楽しもう」。主人公にとって智美は、みんなのうちの一人でしかないことが示唆されている。そして、3以降の作品で、主人公は他の彼女候補と結ばれていることがほのめかされている。ハッピーエンドを辿っても、とうとう智美は主人公とは結ばれなかった。

智美を例にあげたのは、パワポケ1~3が主人公・智美・亀田をめぐる10年にわたる長い因縁の物語であったことに言及するためでもあるが、智美が本シリーズにおいて、極めて重要な、そして物語世界について自覚的な発言をしていたからでもある。パワポケ3の作中で智美はパラレルワールドに思いを巡らしながら一人つぶやく。

智美「悪い奴等に捕まっている時に好きな人に助け出してもらった世界もあれば…自力でなんとかしなきゃいけなかった世界もある。前の支部長に殺されていた世界もあれば、あたしが殺していた世界も。別世界のあたしの方は幸せなのかな。ははは、こりゃ確かに後ろ向きだわ」

ここで言及されているのは、パワポケ1における智美の辿りえた運命である。主人公と付き合っていた場合、智美は射殺されるか主人公らに助け出されるかどちからの運命を辿る。しかし、パワポケ3における智美は、主人公とは付き合っていなかったためそのどちらを進むこともなく、支部長を殺し自らの手で自分を救い出し今に至る。これまで僕たちはパワポケ3での智美の運命を見てきた。すなわちパワポケ1の時点において主人公とは付き合わなかったため、自らの手で自分を救い出せた/救い出すしかなかった智美の、後の運命の分岐を見てきた。今度はパワポケ1にて主人公と付き合った世界線での彼女を見てみたい。

まず彼女が支部長に射殺される場合。ここでも彼女は主人公たちが甲子園に行くために組織を裏切る。主人公たちが出場する甲子園決勝当日、プロペラ団に捕らえられた彼女は、ピストルを前に「…ふん、なによ。プロペラ団なんて、ほかの人からお金をかすめとる寄生虫じゃないの。あなたも、若者をねたんでるだけのくそじじいよ!」と言い放ち、激高した支部長に撃ち殺される。ここから智美はプロペラ団を裏切った時点で、もう自分は助からないと覚悟していたことがわかる。むろん、主人公はそんな事情を知るはずもない。知られることも報いられることもないと覚悟して、彼女は自らを犠牲にした。

最後に、智美が主人公らによって助け出される世界線を見よう。途中までは先ほどの射殺される場合と同様のシーンが続く。そしてピストルを前に智美が上記の言葉を言い放ち、激高した支部長が引き金を引こうとしたまさにそのとき。自分の命を捨てるほどに、あるいは(他の世界線では)他人と結婚して死んだ後もずっと想い続けるほどに、愛した彼とようやく結ばれた未来を諦めたそのとき。あまりにまぶしい主人公たちの輝かしい日々を見送ることもできずに、誰にも知られることもないままにひっそりと自分は死んでいくのだと、彼女が人生そのものを諦めたそのとき。プロペラ団基地に乗り込んだ主人公たちによって、彼女は救われる。「決勝戦はどうしたのよ!」と驚く智美と主人公を乗せて、すぐさまヘリは甲子園へと舞い戻る。全てが終わった後の主人公と智美との会話。

主人公「どうしたんだ、智美。こんなところに呼び出して」

智美「…決勝戦のとき、どうして試合をほうりだして、あたしなんかを助けに来たのよ?」

主人公「おいおい、結局試合には間に合ったんだからいいじゃないか」

智美「よかぁないわよ。今後、ああいうことをやったら絶交するからね!」

とぷりぷり怒る智美に対し、主人公は「甲子園に向かうヘリの中じゃ感激して、うわんうわん泣いてたくせに?」とやり返す。ここまでの文章を読んできた読者なら、ここで明かされた、ヘリの中で感激して「うわんうわん」泣く智美の描写の重みが伝わっていると思う。彼女は誰かに頼ることや甘えることが苦手で、その上どんなことでも一人で乗り切る強さを持つ。そして、主人公にデートの誘いを拒絶されたときも、内心深く傷つきながらもあっけらかんと笑って感情を露わにせず胸の奥にそっとしまっておく。そんな彼女が人生を諦め一人で消えていこうとした次の瞬間、好きな相手が目の前に現れ、助け出される。日の当たらない人生を送り、そして今人生が終わろうとしたそのとき、突然道は開け、輝かしく幸福な日々がこれからも続いていくことがはっきりと明らかになる。智美の涙は、ずっとこらえてきたものが堰を切った安堵の涙だ。彼女は救われた。パワポケ3での彼女を知っているからこそ、何もかもがかみ合い奇跡的に彼女が救われるルートは深い感動をもたらす。そして、パワポケ3が明らかにするように、このルートは実際には起こらなかった出来事だったという意味で、彼女というキャラクターがまとう哀しみは深い。

今回は、智美の例を通じて、プレイヤーの選択により運命が分岐するノベルゲームという比較的新しい物語形式を、いかにパワポケシリーズが活用してきたかを見た。そして、パワポケシリーズの持つ魅力の一端を示したつもりだ。パワポケシリーズはよくバッドエンドが過激であると言われる。智美のバッドエンドより悲惨な結末を迎えるキャラクターは少なくない。しかし、バッドエンドの悲惨さに物語の価値があるわけではない。あくまでもその悲惨さは、僕たちの生きる現実を反映した姿に過ぎないことに、注意しなくてはならない。そんなに都合よく人は救われない。救われないことの方がずっと多い。そうであればこそ、そしてバッドエンドが悲惨であればこそ、その分だけハッピーエンドは僕たちの胸を激しく揺さぶる。パワポケシリーズは物語分岐の機能を通じ、世界と人物に多面性を与えることに成功している。あったかもしれない全ての可能性の総体が、彼女自身であり、世界そのものである。僕たちは全ての可能性を知った上で、それを通じて彼女や世界を見る。そうすることでしか表現されえない深い哀しみや喜びが、パワポケシリーズにはたしかにあったのだ。

今回はノベルゲームが持つ運命が分岐する性質をいかにパワポケシリーズが活かしているかを、四路智美を例にみた。智美の例でわかるように、彼女候補のキャラクターが物語に与える影響や、彼女らに割かれるテキスト量の比重は大きい。パワポケがギャルゲーと呼ばれるゆえんである。次回はパワポケを一般的なギャルゲーのシステムと比較し、パワポケの持つ特異性を明らかにしたい。それを通じて、パワポケがギャルゲーによくある「僕と君」のような狭く閉じた関係にとどまらず、様々な人々の関係が織りなす一つの世界をまるごと表現しようとしたものであることを示すことになるだろう。

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パワプロクンポケット2

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  • 発売日: 2000/03/30
  • メディア: Video Game