モノポリーの新ルール提案:奴隷制度

 モノポリーをしていて、二つ不満があった。①早々に脱落した人間が暇。②決着がつかずダラダラ続きがち。この二つの問題を解決するために、①'脱落した人間は奴隷となり、②'彼らがゲームの決着を早めるよう作用させる、という案が出た。これを検討していくと面白かったので、書く。

 細かいルールなどは後述するとして、結論を先に言うと、上記の不満を解決したとは言えないが、極めてモノポリーの設計思想と同一の内容(カイジっぽい資本主義社会のエグさ)が出来た。しかし、モノポリー自体がこのルールを導入することは、色々マズかったんだろうなあ。もしかするとそういう案はあるにはあったのかもしれない。という感想を持った。

 ルールについて。まず大まかな方向性。可能な限り現行のルールに影響を与えず、またすでにある道具立てのみで実行可能であるかどうかを重視した。追加または変更した点は、大きく分けて三つで、①破産ルールの変更(破産者の奴隷化)。②奴隷主は奴隷の上前をはねることが出来る。③奴隷は転売が可能。また、破産の代わりに奴隷化というルールが出来たので、必然的に勝利条件は「自分以外の全プレイヤーが自分の奴隷になること」になる。

 以下、具体的な内容。破産したプレイヤー(以下奴隷)は破産させたプレイヤー(以下奴隷主)の債務奴隷となる。債務額は一律に500ドルとする。奴隷は債務を奴隷主に完済すると完済後の残額を持ったまま元の一般市民に戻ることが出来る。つまり、奴隷は現金を持つことが可能で、自分のターンに所持している現金を債務の返済に充てることが出来る。そのため、例えば残り債務額300ドル、所持金額500ドル、のような事態が起こり得る。債務額の根拠は、一回のプレイで1~2名程度復活出来れば良いと考えたため。そのため、債務額のルールは変更があっても良い。奴隷の収入は何か。①共同基金やGOに停まった際など普通にプレイした際に得られる収入。②奴隷主の物件に停まった際の本来なら請求されるはずの金額(が収入となる)。②について、ここでは物件を使用するのではなく、奴隷主に対し労働力を提供したと解釈する。他のプレイヤーの物件や共同基金に停まったりすることで生じる出費の扱いは本来通りとする。ただし、奴隷に手持ちの金額がない場合は支払う必要がない(債務が増えることはない)。足りない分はその場で労働して支払ったと解釈する。

 ここまでの説明では、奴隷であることのデメリット、奴隷主であることのメリットがなかった。以下ではそれらについて記述する。第一に、奴隷は他のプレイヤーに転売が可能である。ただし、奴隷を奴隷に売ることは出来ない。販売額は奴隷を除いた売買の当事者間で自由に決めることが出来る。第二に、奴隷主は500ドルの返済を受ける権利とは別に、上述の奴隷の収入の内半額を受け取ることが出来る(奴隷は全ての収入の半額を、収入が発生した時点で、奴隷主に渡さなければならない)。

 最後に、破産ルールの更なる変更を追加した。これまでは、「どのような手段を用いても使用料を満額支払うことが出来ない際に破産する」というルールであった。これを変更後は、「手持ちの金額では使用料を満額支払うことが出来ないとき、たとえすべての物件を抵当に入れていなくても、プレイヤーは破産宣言をし、支払い対象者の奴隷になることが出来る。その場合、全ての所持金が奴隷主に移行するが、奴隷が所持する物件は奴隷が所持し続ける」とした。使用料の支払い以外の理由(共同基金など)で破産宣言がなされた場合は、奴隷主の権利を競売にかければ良い(奴隷の所有権の支払い先は銀行)。奴隷落ちしているにも関わらず権利書を所有していることについては少し苦しいが、隠し資産であるという解釈をした。そのため、奴隷は他のプレイヤーと権利書を交渉カードに取引をすることが出来る。

 何故奴隷が権利書を持ち続けられる設定を導入したか。それは、①復活の可能性の上昇、②復活後の活躍可能性の保障、③交渉の多様化・複雑化などがある。以下では交渉がどのようになされるかについて書く。ここまでの説明では、破産後も権利書の移動がないため、あまりに奴隷に有利であり奴隷主に不利であるように思われるかもしれない。そのため、奴隷と奴隷主以外のプレイヤー(今後は第三者と呼ぶ)との交渉については、制約を設けることにした。奴隷と第三者との交渉の際には、成立のためには奴隷主の許可も必要とする。最終決定権を奴隷主が持つことにより、奴隷が所持する権利書に対し、一定の権限を奴隷主が持つことが出来るのである。すなわち、奴隷主が奴隷を所持するメリットは、①500ドルの返済を受け取る権利、②奴隷の収入の上前をはねる権利、③奴隷の所有する権利書の処分権、を手にすることが出来る点である。

 以上がルールについての記述である。ここまでで僕自身が面白かったことは、モノポリーの設計思想と矛盾しない形で制度を付け加えることが出来たということだ。そして、もう一つ面白かったことがある。それについて以下では示す。それは、上述のルールを検討していく際に見えてきたことだが、奴隷について、債務奴隷と人権の否定された奴隷(近世・近代における黒人奴隷など)のどちらを念頭に置くかで扱いが異なってくる、ということだ。ルールの検討において論点はいくつかあった。第一に、転売に際して、奴隷は動産であるのか、それとも単に債権が転売されているだけなのか。上記ルールでは簡単のため奴隷を転売すると表現したが、実際は後者を採った。それは、基本的にこのゲームは近代社会が舞台であり、人権のない人間を想定していないためである。そのため、債権奴隷という表現も本当は正しくない。実際は、債権の存在により事実上の奴隷状態にある人間、という程度の意味となる。第二に、上前をはねるという現象につき、それは(法外な)利息であるのか、それとも単なる搾取であるのか。これも第一のものと同じ理由から、利息であるということにした。第三に、交渉権を奴隷は十全に持っているのか、そもそも交渉権を持っているのか、くわえて奴隷は所有権の主体となりえるか。これもまた、奴隷は所有・交渉という基本的な権利を持っているのか、という意味での人権の有無の問題である。ルール上は基本的な権利を持つが、制約されるとした。