復讐について GRIMOIRE×ALICEを題材にして

物語の題材としての「復讐」は、それなりにポピュラーなものである。思いつく限り挙げてみて、ハムレット忠臣蔵ハンターハンターのクラピカ編、恩讐の彼方にモンテ・クリスト伯などがあろう。

僕の知る最も優れた復讐をテーマにした物語について書きたい。東方Projectの二次創作作品の『GRIMOIRE×ALICE』である。

 

曲:https://www.youtube.com/watch?v=OM2SejPDVvs

歌詞:http://www43.atpages.jp/toholyrics/mobile/menu.php?songnum=491

 

まず、歌詞のストーリーをざっと自分なりの解釈で説明しよう。以下、「」内は歌詞の引用。

歌いだしで「さぁ、遊んであげるわよ! 究極の魔法でね!」と啖呵を切った後、「絡み合うもつれた螺旋がえがいた二人の交わる運命はあの日から二度戦う未来が在る事判っていたから」と、相手との数奇な運命を辿る。

そして、「闇に咲いた深紅の月 心の中問いかけた『どうして?』」と、前段で復讐のきっかけとなる惨劇が暗示され、後段では<何故私にこのような悲劇が降りかかるのか?>という、決して答えられることのない根源的な問いが投げかけられる。

「この体渦巻く想いを隠して生きてく事なんて出来ない」と、過去に囚われた、あまりの不条理に崩れ落ちそうになる身体。「巡る星のあかりを辿り あなただけは逃がさない」という悲しくも凛々しい決意をもって、生きる意味を見出し、かろうじてその身体を支えている。

―――――「目覚めたら全てが終われば…儚い夢など見たくないこれ以上」

 

「教えて? Grimoire 全て壊す力を」

今や彼女にとって復讐の成就は、世界の全てを滅ぼすことと等価ですらある。

 

きらめけ Grimoire 憎しみその身を焦がす」

「解き放て Grimoire 哀しみこの身を濡らす」

 

 

さて、「ここに記されたのは…」から始まるラストの口上。

ここで今までの美しい歌い方とうってかわって、決然とした口調で宣告が下る。「私はもう決してあなたを…ゆるせない」。そして、「煌めく星達のあかりを辿り あなただけを逃がさない」と決意の言葉が、再びあの美しい歌唱でもって繰り返される。それは愛の言葉にも似て甘く歌い上げるようである…

―――――「紡ぎ出す言葉は甘く溶けて」

ここでハッとした。何故前後で歌い方を変えているのか。この曲を歌うこと自身が、Grimoireの発動条件だからではないのか。歌いだしの語りは詠唱開始の宣言であり、歌中の語りは詠唱が完了し、発動を宣言するものである。

折り目正しく、美しく、この曲を歌い上げること。形式が正しければ正しいほど、歌が美しければ美しいほど、復讐の相手をより苦しめて殺すことができる。自身でも制御しがたいほどの感情を、形式に則ることによりかろうじて我が物としているのである。怒りと悲しみというワレモノを、言葉と形式という布で幾重にも幾重にも、それこそ赤子を慈しむようにくるみ、そして憎悪を護り育てていく。

この曲の核は、抑制の効いた優しい歌唱と歌われる内容の激しさとの異様な乖離である。あまりに強い負の情動は、時に愛を語るような優しさをもって表出されるという逆説が巧みに表現されている。

 

 

 

ところで、今日において、強度のある物語は、功利主義の外側をテーマにしていることが多いように思う。そのこと自体については後日詳述するとして、本題に引き付けて書くならば、以下のようになろう。

<復讐は何も生まない、力の応酬は更なる悲劇を生む>という言い古された言葉。この命題に拠って立つ復讐の物語はなんと退屈なことだろう。わかりきった優等生的回答に、何の意味も見出せない。この曲の素晴らしさは、喪ったものにたいする悲しみと怒りを、正面から書いていることである。もうどうしようもない事柄にグズグズと拘泥し続けること、それは一つの倫理である。

何も生まないことが何であろう。更なる犠牲がなんであろう。既に喪ったものと、これから喪うかもしれないものを同列に扱うこと、それらを量的に同じ数として扱うこと、それ自体が最も恐ろしい。

歌詞を読むと、悲願を果たし復讐という生きる意味を失った今、あるいは仇とともに、彼女は死のうとしているのではないか、という疑念が湧く。また、生きていくとして、分別くさい功利主義を拒絶して独我的に突き進んだ結果と、彼女はこれから向きあう。また新たな意味づけをしなくてはならなくなるのだろう。それが定型的な贖罪なのか、それともまた他の何かなのか、それは誰にも今はわからない。

ただ一つ言えること。ラストの「さよなら… Grimoire 二度会うことはない 動き出す最後の LAST SPELL 見つめて…」の、最後の声にこもった感情は、放出の虚脱だけでは決してない。